インボイス制度導入にむけて
~取引先の「免税事業者」に対して注意すべきこと~
いよいよ令和5年10月からインボイス制度がスタートします。
制度の趣旨は何となく理解できている方でも、「免税事業者」とのお取引についてお悩みではないでしょうか。
免税事業者からの仕入れではインボイスを発行してもらえないことから、
① 免税事業者にインボイスを発行できる課税事業者に転換してもらいたい
② 免税事業者のまま取引を継続するのであれば、仕入税額控除ができない分、取引価格を引き下げてもらいたい
と考えるでしょう。いずれにも応じてもらえない場合には、
③ インボイスを発行できる課税事業者との取引に切り替えるため、免税事業者との取引自体の停止を検討することになる
かもしれません。
しかし、対応の方法や内容を誤ると独占禁止法や下請法に違反するという重大な問題が生じてしまう恐れがあるのです。
そこで以下に独占禁止法や下請法の目的に照らし合わせながら、免税事業者である仕入先との取引において注意すべき点を解説します。
■独占禁止法って?下請法って?
・独占禁止法は消費者の利益を図ることを目的として、事業者間の公正・自由な競争を阻害する行為や状態を禁止するものです。
一部の事業者による市場の独占や寡占、他の事業者を締め出す行為がなされると公正・自由な競争が阻害されてしまいます。
このような事態を防ぐため、独占禁止法では、公正・自由な競争を阻害し得る行為・状態を禁じています。
・下請法は独占禁止法を補完する法律です。正式には「下請代金支払遅延等防止法」と言います。下請事業者に対する親事業者の不当な取り扱いを規制する法律です。
■独占禁止法・下請法違反のおそれがあるケース
① 免税事業者にインボイスを発行できる課税事業者に転換してもらうよう要請する
要請を行う事自体は問題ありませんが、「課税事業者にならなければ取引価格を引き下げる」「それにも応じなければ取引を打ち切る」
などと一方的に通告することは独占禁止法違反となる恐れがあります。(他の事業者を締め出す行為とみなされます)
② 取引価格を引き下げてもらう
取引価格を引き下げてもらうよう協議することは問題ありませんが、協議せずに一方的に引き下げした場合、下請法に違反(買いたたきの禁止(4条1項5号))する恐れがあります。
③ 免税事業者との取引の停止
取引を継続するか否かは各事業者の自由であり、その行為自体は問題になりません。
しかし、取引の継続を担保として仕入先に対して不当な条件を一方的に提示し、その結果として取引の停止に至った場合などは独占禁止法及び下請法違反になる恐れがあります。
実務的には②の値引き対応をすることが多いと思いますが、経過措置(※1)に応じた段階的な取引価格の引き下げを行うことも一つの方法です。
(※1)経過措置・・・インボイス導入後3年間は免税事業者からの仕入額に対し8/110、その後3年間は5/110の仕入税額控除が認められます。
全てのケースに言えることですが、「公正な手続きを経て取り決めたのか」「優位な立場を濫用して不当な条件を提示していないか」がポイントになります。
取引先との協議過程については、後日当局から調査が入った場合に説明できるように記録しておくことも重要でしょう。
もちろん取引先に対して「誠意ある協議」が前提であることは言うまでもありません。
最後に・・・
公正取引委員会は外部からの報告だけでなく職権により調査することが認められており、インボイス導入後は調査件数が増えることが予想されます。
制度導入前に一度お取引先様と協議されることをお勧めします。